N.C.Cを起点に小さな循環を生み出した岩崎良と河辺拓の視線は、店の外側にも向けられていた。長居に何が足りないのか——N.C.Cの立ち上げを「チャレンジングだった」と振り返る2人は、その問いに向き合い続けてきた当事者にほかならない。元スナックのカウンターから一枚のガラスを隔て、街に何を見出しているのだろうか。

アパレルショップ「A(C)(ええかっこしい)」を営む。
A(C)では阪神タイガース公式コラボアイテムも制作。

作家ものの器やオブジェ、古物なども扱う雑貨店「futou」を経営。
正直パッとせえへんなって
——N.C.Cを開いて約半年(取材時点)になりますが、あらためて、長居という街をどのように見ていますか?
ちょっと悪く言うと、中途半端ですね。僕にとっては、住んでる街でもあるんですけど(笑)
——中途半端……ですか。
長居公園という立派なインフラが整っていて、しかも地下鉄(大阪メトロ 長居駅)はほぼ直結。そんな街なかなかないじゃないですか。さらにJRも通ってて、すごく便利。スーパーもコンビニもあるし、飲食店もたくさんある。やけど、なんか正直パッとせえへんなって。
——機能としては優れているのに、どこか物足りなさがある、と。
はい。言い換えるなら、狭間やと思いますね。天王寺と堺の中間、人が集まるエリアの間っていう地理的な意味でもそうだし、時代の流れを考えても「どっちにも転べる分岐点だな」と思ってて。いま何もしなければ、このまま終わるかもしれないし、めっちゃおもろい街になる可能性もある。自分たちは、そこに立ってる感覚があります。
——河辺さんの目には、長居はどう映ってますか?
自分はもともと長居には縁がなく、土地勘もなかったんですけど、いざN.C.Cを始めてみると「魅力的な土地だな」と思い直したんですよね。

——外から入ってきた感触としては、プラスの面が目立ったんですね。それはどのような部分ですか?
なんていうのかな。ちょっとヘルシーな感じというか……ローカル感っていうんですかね。都会の喧騒からほどよく離れていて、公園もあり、古い街並みもあって、素敵なお店が点在してる。
——なるほど。おふたりの意見を合わせるとすれば「魅力はあるけど、まだ外側の人たちを強く惹きつけるには至っていない」ということでしょうか。
そうですね。futouに来てくれるお客さんは、大阪市内やさらに北の方からいらっしゃる方が多いんですけど、聞いてみると大半が「長居には行ったことない」と。でも今は、それこそが伸びしろやな、とも思っています。
確かに。最近は「ええ店を2、3軒見つけたから、いっぺん行ってみようか」って、この辺りまで足を延ばしてくれる人も、ちょっとずつ増えてきてる気がしますね。
空気を変えるプレーヤーが足りない
——では、長居に増えてほしいスポットはありますか?
ズバリ、おしゃれな立ち飲み屋が欲しいですね。N.C.Cと同じ通りに、「松寿し」さんっていうお寿司屋さんがあって、めちゃくちゃ雰囲気いいんですよ。そういう大先輩の老舗があった上で、都会的なお店もあっていいかなと。
いつもそんな話をしてますね。
例えばうちみたいにガラス張りで、中は洒落た兄ちゃん姉ちゃんらでにぎわってる、そんな飲食店があったら、もっと楽しくなるなと思ってて。今すぐにでも、誰か出店してほしい。
——かなり具体的ですね。
それだけで、街の空気がだいぶ変わると思うんですよ。現状では、長居公園に来た人が周りでも遊んでくれるケースって、蚤の市系のイベントや大規模なライブのときに限られています。それから、海外の人がわざわざ足を運んでくれるアートスポットもあるのに、公園の外側には誘導できていない。それが悔しいですね。
逆に僕は、細かく「こういう店」というイメージはないんです。ただ、このエリアに足が向くきっかけになる場所がもっとあれば、とは思います。地元の方々に愛されつつ、外からもある程度人が入ってきた方が面白くなるはずなので。
まずは僕らが「N.C.Cがあるから、ちょっと長居まで行ってみよう」って思われる存在になれたらいいよね。誰かの目的地になることが目標です。

自分の感性を信じて
——では、これから長居で何かを始めたいという人がいたら、何を伝えたいですか?
岩崎さんの言葉を借りるなら「パッとせえへん街」で何かを始めるって、チャレンジングだと思います。N.C.Cもそうですし。でも「自分の感性を信じて」と伝えたい。ローカルに適応しようと思えば、いくらでもできるんですけど。
とことん“寄せる”って選択肢もありますもんね。
そう。でも自分たちはあえて「若干敷居の高さを感じるけど、入ってみたらフランクな空間を作ろう」と言語化している。そのスタンスは崩さないでやろうねっていうのは、2人の共通認識として大切にしています。
——新たに入ってくる人たちにも、そんな芯を持ってほしい、と。
はい。最初は「受け入れられないんじゃないか」と不安になるのも分かるんです。だからこそ、チャレンジ精神を持って「やっていくぞ」という方がいたら、すごく共感するし応援します。N.C.Cとタイプが違っても、です。もし一緒に何かできたら、相乗効果もあると思うので。
ブレないって大変なんですよね。実際、多少は雰囲気やサービスを街に合わせないと、商売として成り立たない部分もあるし。自分のセンスを保てる範囲を見極めて、「ここまで」って1本線を引く感覚が大事で……って、僕らもまだまだ調整中ですが。
——では近い将来、例えば2030年に、長居がどんな街になっていてほしいですか?
いろいろ言わせてもらいましたが、「こういう人に“だけ”来てほしい」ってわけじゃなくて、いろんな人が混ざり合っていたら楽しいだろうな、と思います。そうなると、さらに面白い人が増えて……っていう、いい循環に入るはず。
全く同じ考えです。長居が、長居らしさを残したまま、少しずつ豊かになっていったらいいですね。景色が全部マンション、チェーン店っていうのは違和感がある。個々のキャラクターが生きてるお店が、もう少し増えてくれたら。
そうなったら、「俺らの街、悪くないよな」って、住んでる人の肯定感も上がるじゃないですか。2030年っていうと4年後だけど、頑張ったらそんな街になれる可能性は十分にあります。
街への率直な不満も口にしつつ2人が掲げたのは、まず自分たちが己を信じ続けるという目標だった。そんな彼らが望むのは、同じ熱を持つプレーヤー。共創のパートナーたちが現れたそのとき、N.C.Cは挑戦者の行き先を示す灯台になるかもしれない。(おわり)

