岩崎良と河辺拓が長居の一画に立ち上げたN.C.C。だが、開店してみると、2人のプランは想定外の出来事によって次々と上書きされていった。コンテンツで勝負するつもりがスタッフが主役になり、「敷居の高い場所」を目指したはずが、想定していなかった層との出会いも生まれた。「任せる」と決めていた2人の目の前で、何が起きてきたのか。

アパレルショップ「A(C)(ええかっこしい)」を営む。
A(C)では阪神タイガース公式コラボアイテムも制作。

作家ものの器やオブジェ、古物なども扱う雑貨店「futou」を経営。
自分の色を出しすぎないと決めていた
——オープンに向けて、お互いの役割や進め方はどう決めていたんですか?
自分の色を出しすぎない、というのはすごく意識してたポイントですね。
——出しすぎない、というのは?
自分の店であるfutouのスタイルはすでに確立されていて、そっちでは百パーセント自分の好みやセンスでやっています。ただ、全然違うタイプの人と一緒に新しい店を営むことで、もっと新しいものができるんじゃないか? って思いが芽生えてきて。だからN.C.Cでは、あえて、自分らしさを抑えたつもりです。
でも僕は、N.C.Cの95%は河辺さんの色だと思ってるんです。というのも、河辺さんがつくる世界観やセレクトは、僕には真似できないから。そもそも、そこに惹かれて始めたプロジェクトでした。

——お互いに「任せ合っている」という認識なのは、少し意外です。
いい意味で肩の力が抜けてきたのかもしれません。キャリアも長くなってきたし。
内装も、デザイン会社の方にほとんどお任せでした。こちらの言ったことを汲み取って、どういう形にしてくれるのかを楽しんでた、というか。
2人とも「長けてる人がやったらええやん」っていう感覚で一致してるのかも。それでいうと僕はやっぱり、河辺さんのような作り込みよりも、大衆向けに翻訳して広めていく役が向いてる。自分ひとりだったら、こんなかっこいい店、絶対できてないと思う(笑)
スタッフが“勝手に”動きだした
——オープンしてから半年がたちましたが、印象的だった出来事は?
うーん……毎日印象的なんですよ、ほんまに。なんせ初めてのことを日々やってるので「こうしたら、そう受け取られるんや」みたいな発見だらけです。その中でも一番大きかったのは、スタッフかな。
確かに、いい意味でもくろみと違ったのは、人の部分ですね。もともとは「コンテンツで勝負しないといけない」と思ってたんですけど、実際始まってみると、予想以上に個性的で魅力的なスタッフが集まってくれて。
だから、スタッフに付いてくれてるお客さんが結構いるんですよね。それは想定してなかった。
——スナックだった物件を生かして改装したという話がありましたが、物件の特性も関係している?
なくはないと思います。でもそれだけじゃなくて、スタッフ自ら手を挙げてイベントを企画してくれたりもしてて。出展者を募ってZINEのイベントを開いたり、間借り営業を始めて経験を積む場として使ってくれたり……。こういう動きは当初想像していなかったので、非常にうれしいし、何より刺激的ですね。
そう、僕らは自分の店がそれぞれあるから、毎日N.C.Cに立つことはできない。もともとそんな事情でスタッフを集めたのですが、気づいたら単なる働き手ではなく、彼ら彼女ら自身がある種勝手に、コンテンツというか主役になっていました。

来てくれた人、来てほしい人
——周囲の反応はいかがですか?
これはA(C)のお客さんからリアルに言われたことなんですけど、「カルチャーセンターっていうくらいやから、クリエイティブなことしてる人らだけが集まる場所やねんな」って。ちょっと入りにくいと感じられたみたいです。ポジティブな意味での敷居の高さは、狙ってた部分でもあるんですけどね。
——そのような声には、どのように対応されたのですか?
特別なことをしたわけじゃないんですけど、半年店を開けて、お客さんが出入りしてくれる中でちょっとずつ緩和されてきたかな、と思います。1回来てくださったら「入ったら案外、居心地ええやん」と思ってもらえるみたいで。今は、その感覚を広くシェアしていってる最中です。
——河辺さんの周りの方々は、どのような感想をお持ちですか?
「入りにくい」っていう声は、うちのお客さんからはなかったです。岩崎さんとはよく話すんですけど、お互いのお客さんの反応は結構違いますよね。
うん。実は僕も、昔は「アートやデザインをやってる人たちって近寄りがたいな」って感じる側だったんです。他者を寄せ付けないバリアをぼんやり感じるというか。でも「しゃべったら全然そんなことないやん!」っていう経験がたくさんあって。そうやって先入観を裏切られてきた僕だからこそ、クリエイターって意外と交流しやすいよ、と伝えていけたら。
——N.C.Cには、どんな人に来てほしいですか?
こんな世界もあんねや、っていう人らにこそ来てほしい。感度の高い人は、情報を見つけて勝手に来てくれるじゃないですか。学生さんや、フラッと来てくれた近所の人たちとの接点こそ大事にしたい。
来てくれた方を、分け隔てなく大事にする。そうしてると、お客さんの紹介で来てくれた方が、また誰かを連れてきてくれたり。カウンターに座ってるお客さんに話しかけたら、新しい企画が立ち上がったり。思わぬところから何かが始まる、というのが本当によくありますね。
——N.C.Cに来られた方が、それぞれのお店に流れることも?
最初は逆だったんですけどね。futouやA(C)からN.C.Cに来てくれる方が多かったんですけど、今はN.C.C発のほうが多いです。先日も、東京に住んでるご夫婦がN.C.Cを見つけて来てくれて。服と器の両方をお好きだからと、わざわざ巡ってくれて。
雰囲気も違うショップなのに巡って楽しんでもらえたのは面白かったですね。N.C.Cをやってなかったら、お互いの店をお客さんがハシゴするなんてこと、なかったかもしれません。
互いの感性に任せ、スタッフに任せ、来店者の反応に向き合いながら、N.C.Cは少しずつ姿を変えてきた。その手応えを感じながら、2人の視線は常に店の外側にも向けられている。長居という街に、何を望むのか。(つづく)
