ディズニー、マーベル、ルーカスフィルム……名だたるスタジオの公式アートを手がけてきたカズ・オオモリだが、その道のりは華やかなだけではなかった。限られた制作期間でポスターを仕上げるなど、ギリギリの戦いを続けながら、「クライアントの期待に100%応えるのは当たり前」で、常に200%の完成度を狙う流儀は譲らない。そんな中、AIによって100人分の仕事が消えた瞬間を間近で目撃した。世界の第一線で創作を続けるアーティストは、その先で何を選び取ったのか。キャリアを変えた仕事と、AIがもたらした転機について尋ねた。

カズ・オオモリさん
カズ・オオモリKaz Oomori

グラフィックアーティスト。
1967年、大阪生まれ。橿原学院高校美術科を経て、奈良芸術短期大学デザインコースを卒業。デザイン制作会社勤務ののち渡米し、ミネアポリスの美術大学で学ぶ。帰国後、自身のスタジオ「Tune Grafik」を設立。ディズニー、マーベル、ルーカスフィルムなどの公式アートを手がける、ウォルト・ディズニー・カンパニーUS公認アーティストとして知られる。大阪芸術大学芸術学部デザイン学科教授。

「絶対にやらせてくれ」と言い続け、手にしたディズニーの仕事

壁に並ぶ『マンダロリアン』3枚組のコレクタブルポスター© 2026 Disney/Lucasfilm Ltd.
™ Lucasfilm Ltd.
Represented by Meokca Inc.
Artwork by Kaz Oomori

——前回、依頼される前から描く自主制作「パッションプロジェクト」のお話がありました。その積み重ねが、実際に大きな仕事へつながっていったのでしょうか。

カズ・オオモリ(以下、カズ)

そうですね。制作を続けながら、エージェントには「ディズニーのプロジェクトが来たら、絶対にやらせてくれ」と言い続けてたんです。僕が絵を描き始めたのは、ディズニー作品である『ピノキオ』がきっかけだから。そんな中で声をかけてもらったのが『ベイマックス』でした。アートワークをたくさん作るプロジェクトだったので、オーディションを経てキャスティングが決まったら、何十点と制作する日々でした。

——その後、ディズニーとの関係はどう広がっていったのですか?

カズ

リピートで依頼を受けるうちに、直接ディズニーからオファーをいただくようになりました。映画のビジュアルが多いですが、ディズニーランドやディズニークルーズ関連の制作もやりました。今は、ディズニーから直接いただく仕事と、エージェント経由の仕事、両方あります。

——そうした実績の中で、特に苦労した仕事を挙げるとしたら?

カズ

『スター・ウォーズ』です。「続3部作」と呼ばれるエピソード7・8・9は、それまで長らくシリーズが映画化されていなくて、「物語が再び動き出す!」とファンの間で話題になった作品でした。そんな3本分のポスタービジュアルを、まとめてオファーいただいたんです。ただ、蓋を開けてみると、エピソード7にかけられる制作期間が1週間しかなくて……。

——映画のポスターを1週間で、ですか?

カズ

そうなんです。しかも「1枚でポスターとして成立し、3枚並べるとひとつの大きなビジュアルになる」というギミックのあるキャンペーンをやりたいと。だから、別のキャラクターをメインにした3枚を、1週間で描かないといけない。それまでのキャリアにもないスケジュールで、寝られないし、体が痛い、目も痛い……あんなに辛かったことはないですね(笑)

——制作ボリュームやスケジュールの面での負荷が大きいのは、少し意外です。

カズ

クリエイターにとって最も重要なのは、限られた時間でどれだけ力を発揮できるか。でも、クライアント側からするとクオリティが第一。キャスティングされている以上、ディズニー、ルーカスフィルムが「OK」を出すレベルの制作物を作るのは、最低限の義務なんです。それを100%とするなら、僕はいつも200%を狙っています。

——期待通りでは足りないと。

カズ

「これくらいを期待してたけど、そう来るか」「こんなアイデア、思いつかなかった」という新しい驚きを、必ず付け足す。そうしないと、次の仕事につながらない世界なんです。制作にかけられるのが3日だろうが、半年だろうが関係ない。「1週間で描いたとは思えない」と言われるレベルで打ち返せたエピソード7は、キャリアの転機になりました。

AIに仕事を奪われ、アナログの比率を高めた

スタジオで取材に応じるカズ・オオモリの横顔

——少し話が変わりますが、AIの台頭でアーティストを取り巻く環境も変わってきていると思います。カズさんはどう捉えていますか?

カズ

実は僕は5年前、AIで仕事を失ってるんです。ある音楽イベントの「100人のアーティストが100種類のポスターを作る」という企画があり、僕も依頼を受けました。100人にギャランティを払うわけなので、ずいぶん予算のあるイベントだな、と思っていたんですけど、制作を始めようとした矢先に電話がかかってきて。「すみません、例のプロジェクト、キャンセルさせてもらえませんか」と。ピンと来たので「ひょっとしてAI?」と聞いたら、その通りでした。

——では、その予算は……。

カズ

結局、クリエイターには使わず、AIで生成したイラストで作ったポスターが街中に貼られたんです。浮いた資金は、ステージと音響設備に回されたと聞きました。それが5年前です。これはますます大変なことになるぞ、と思いました。

——その危機感から、どう動いたのですか?

カズ

いろいろ考えた結果、「フィジカル」というテーマを掲げました。AIを使えば、誰でも簡単にクオリティの高いものを書き出せる時代が来る。それじゃあ、その人たちが表現できないものは何だろう? と。僕のオリジナリティは、紙と鉛筆だけで表現できることだ、と分かったんです。

——あえてアナログに回帰することを選んだのですね。

カズ

デジタルツールが出る前は、全部絵の具で仕事してきた世代だから、デジタルじゃなくても絵は描ける。だったらもう一度アナログに戻れば、その分の価値が上がっていくはずだと。そこで、5年前からアナログ制作の比率を上げてきました。もうひとつは、その時その場所でしか得られない体験を重視しています。ライブペインティングで壁画を描いたり、子どもたちのワークショップをやったり、身体を使う活動に積極的に取り組んでいます。

作品集を開き、手がけたアートワークを見せる手元

1週間で描いた3枚のポスターも、絵の具の時代から積み上げてきた手の技術も、全て「期待の200%」を返し続けるための蓄積となっていた。しかし5年前、AIにその足元を揺さぶられ、カズ・オオモリが選んだ答えは、最新の技術を追うことではなく、手描きに立ち戻ることだった。その眼差しは今、どこに向かっているのか。世界を舞台にしてきたアーティストが、なぜ大阪の街で子どもたちと絵を描くのか。次回は、彼が暮らす街の話を聞く。(つづく)